映画「Chime」は、配信プラットフォーム「Roadstead」のオリジナル作品第1弾として制作された名匠:黒沢清監督の最新作!
「自由に作品を制作してほしい」という依頼を受け制作された、たった45分間の作品だが、SNSでも話題を呼び、映画館でも大ヒットしているゾ!
ホラーやサスペンスといったジャンルに収まらない、黒沢清監督ならではの独特の恐怖が描かれた本作
映画「Chime」あらすじ
料理教室の講師として働いている松岡卓司(吉岡睦雄)。
ある日、レッスン中に生徒の1人、田代一郎が「チャイムのような音で、誰かがメッセージを送ってきている」と不思議なことを言い出し、驚くべき行動に出る。
すると、松岡の周囲で次々と異変が起こり始め‥‥。
【ネタバレ有り】映画「Chime」恐怖ポイント①:登場人物全員なにかがおかしい
Chimeの恐怖ポイントとして、登場人物たちが普通の人間に見えて、非常に無機質で言動に違和感があるのダ!
ここでは、登場人物の言動の違和感について見ていこう!
料理教室の生徒「田代」
物語の発端となるのは、とある料理教室の生徒「田代」という男だ。
料理教室に通っているが、周囲には溶け込まず、一人で好き勝手に調理している。
タマネギを細かくみじん切りにするシーンも、料理教室の松岡が「それ以上みじん切りをすると、逆に水分が出ちゃいますよ」と忠告しても、「そうですか」と言って再びみじん切りする。
ここまでだと、ちょっと変わった生徒くらいなのだが、段々彼の言動が常軌を逸したものになっていく。
- 「人間の悲鳴のようなチャイムの音が聞こえる」
- 「頭を機械に改造された」
など、明らかに精神に異常をきたしていると思われる発言ばかり。
そして彼はそれを証明するため、自らの首に包丁を入れ、自死する。
料理教室松岡
冒頭に登場する料理教室の生徒「田代」は、明らかに異常なキャラクターだ。
料理教室松岡の家族
松岡には妻と息子がいるのだが、この家族もどこか異常だ。
ある食卓のシーンでは、松岡と息子が部活動について話している最中に、息子が突然ヒステリックに笑い始める。
そして、妻は急に席を立ち、庭のゴミ捨て場に大量の空き缶を捨てに行く。
しかし、松岡は家族の異常な言動に対して全く興味を示さず、無反応でいるのだ。
この家族に何が起こっているのかについての説明もなく、謎めいた空気が張り詰める。
食卓のシーンでは、料理が置かれたテーブルにだけ光が当たり、他は暗い。
料理以外にはまったく関心がない松岡の心理を象徴しているかのようだ。
料理教室の生徒「明美」
田代が死んだあと、料理教室で個人指導を受ける「明美」
この女性生徒の言動も、明らかに頭おかしくて異常。
丸鶏を気持ち悪いと言って調理を嫌がるだけならまだしも、
「生きてる鶏を調理するのは良いんですけど、中途半端な処理がされていて余計に気持ち悪い」と言って、丸鶏を放り投げる。
普通にドン引きの発言だが、次の瞬間、主人公の松岡によって突然刺殺される。
料理教室の生徒
他の料理教室の生徒たちも、どこか異様な雰囲気を醸し出している。
「田代」が自殺しても、平然と教室に通い続けており、極端におびえる様子がない。
さらに、ある生徒が、殺したはずの明美が教室にいると松岡に告げる場面がある。
女子生徒が教室に入り、椅子を指さして「そこにいます」と言うだが、実際には誰も座っていない。
そして、しばらく間があった後に「あれ?確かにいたと思ったのですが…」と不思議そうに反応する。
普通、人がいなければ入ってすぐに気づくはずだが、この生徒は指をさすまで、その場に人がいたと錯覚しているのだ。
映画「Chime」恐怖ポイント②:シチュエーションが怖い
料理教室というシチュエーションはホラー映画ではあまり出てこない舞台のように見えるが、よく考えたら怖いシチュエーションだ。
手元には人を殺せる刃物が揃っており、料理初心者は他人も自分も傷つけてしまう可能性を孕んでいる。
そうした状況下で、次は一体誰が人を殺すんだろう。あるいは誰がこの包丁を使って自死するのだろう。
刃物がチラッと映るだけで、そんな不安や恐怖が増大してくる。
このありそうでなかったシチュエーションをチョイスしたセンスがお見事である。
映画「Chime」恐怖ポイント②:音の使い方が怖い
多くのホラー映画は音で恐怖を「説明」する。
しかし、それが恐怖を半減させていると感じる瞬間が私は多くある。
この映画は基本、恐ろしいことが画面で起こっても無音だ。
無機質な環境音だけが響いている雰囲気が、非常に無作為で人間の恐ろしさを倍増させている。
反対に全く怖いと思えないようなシーンでいきなりノイズのような音楽(音)が鳴り響いたり、かと思えば突然完全な無音になったり。
こちらの情緒を不安にさせるような絶妙な音の使い方が素晴らしい。
映画「Chime」恐怖ポイント③:「何か」を映さない
実はChimeには幽霊らしき何かが出てきていると思わしきシーンがある。
- 料理教室で誰もいない椅子を指さした後のシーン
- 最後の主人公の自宅シーン
しかし、幽霊なのか、それとも別の「何か」なのか。
その正体は具体的に映されないのだ。
恐怖映画好きなら、幽霊のビジュアルを見たいという人も多いだろうし、そこに作品の命である「恐怖」を託している監督も多いだろう。
しかし、黒沢清は本当に恐ろしいものは見せないのだ。
本当に恐ろしいものは「何か」を理解できないことにこそある。
例えば、暗闇から得体の知れない何かが迫ってきたとき、人は恐怖するだろう。
だが、相手が人間なのか、幽霊なのか、それとも生き物なのか正体がわかれば対処の仕方も解る。
この映画は鑑賞者に対処の仕方などを与えない。
解らないからこその恐怖をそのままぶつけてくるのだ。
映画「Chime」の感想
理由や意味が解らないからこそ恐い
考察好きの方は、何故主人公があんな行動をするのか「理由」を求める人が多く居るだろう。
しかし、この映画は「理由がない」ということが恐怖の根幹であり、主題であると思われる。
監督のとあるインタビューを見てみたのだが、これは間違いないだろう。
- 黒沢清監督インタビュー
- 本物の殺人犯に会ったことがないため実際どうなのかはわかりませんが、色々と本を読んだりドキュメンタリーを観たりすると、大変なことをしでかす人に限って「たまたまそこに包丁があった」「魔が差した」といったような理由が案外多く、本人もなぜそうしたのかがよくわかっていない場合が多々見受けられます。
物語的にそれじゃあ困るというので「誰それに腹が立っていた」等々のドラマを設けていますが、実際はそんなもののようです。
ー引用:【インタビュー】黒沢清監督が語る、黒沢流・恐怖演出と映画『Chime』での挑戦
つまり、主人公が料理教室の生徒を殺したのも、腹が立ったとか、嫌気が差していたとかではない。
「なんとなく」なのだ。それが怖い。
あなたが今日何気なく喋った人も、ふとした瞬間に殺人鬼になっているかもしれない。
もちろん、自分自身も例外ではない。それがこの映画の胆だ。
映画「Chime」好きにおすすめの映画
ここからは、映画Chimeが好きな方へおすすめの映画を教えよう
CURE
やはり黒沢清の映画を味わいたいならこの作品だろう。
催眠暗示をテーマとした作品で、Chimeに通じる謎めいた空気感を味わえる。
催眠で人を次々、殺めていく名もなき男の目的はなんなのか。
主人公の高部も実は異常者なのではないか?
見ている側が終始、翻弄される圧巻の名作。
去年マリエンバートで
意味不明。理由なき恐怖と言われると真っ先にこの作品を思い浮かべる。
登場人物が歩いている際中、いきなり背景が変わったり、突然静止したりする。
とにかく全編、意味不明な恐怖に包まれており、不気味に響き渡るオルガンの音色が呪いのように頭にこびりつく。
Chimeに通じる恐怖を味わいたい方におすすめの作品だ。
まとめ
この映画を評価するとしたら、92点。
かなりの高得点で良質なホラー映画であることは間違いないだろう。
配信サイトで再び見られるときが来るのが楽しみだ。
おそらく2回目、3回目と見返した方がより恐怖のポイントなども見えてくるだろう。
その時まで映画のシーンを頭のなかで振り返りながら待つとしよう。